鳥取県医師会と医師会総合情報ネットワーク構想
− パソコン用語を用いない平易な言葉で −
はじめに
去る1月22日土曜日に、西部医師会館において第1回鳥取県医療情報研究会を開催いたしました。この会の開催にあたってはK会長、H副会長に座長役をお願いし、西部医師会情報システム委員会が一丸となって当たったものです。まずはその西部医師会情報化十字軍のメンバーをご紹介してこの原稿をスタートしたいと思います。
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その頃の電子メール(インターネットを利用した文章による通信)の記録を見ると、僕たちが研究会の開催に向けて具体的に動き出したのは平成11年の12月13日からです。西部医師会情報システム委員が核になり、東中部の有能な先生方に参加をお願いして開催に向けてのメーリングリスト(電子メールによる会議)を立ち上げました。これ以降、実際の開催までに一度もスタッフが顔を合わせることもなく、毎日大量のメールだけで問題を解決しながら開催にこぎ着けたのは僕自身も驚きです。結局このプロセスがスモールグループでの協議決定過程における電子メールの可能性を実証する場でもありました。
講演は4題ありましたが、ここでは僕が講演させて頂いた話題について、H先生に叱られないように専門用語を排して平易な言葉を使いながら、お話しさせていただきます。
情報化はなぜ必要か?
情報化がなぜ必要であるかを、パソコンなどの情報機器に接したことがない方にご説明するのは至難の業です。それは電話機を使ったことがない方に電話機の便利さを説明することに似ています。でもそんなことは言っておられないので、日本医師会と西部医師会員の関係について例を挙げながらご説明しましょう。
日本医師会は医療政策や保険制度などの重要な情報を日医会報や県・地区医師会経由で会員に向かって発していきます。この情報は紙に書かれて会員に流布されますが、会報の場合書かれた原稿が末端の会員に達するのに2ヶ月以上の日時を要しています。またこれらの情報が県や西部の医師会を経由してくる場合は、そのプロセスに介在する組織によって情報が加工・変質する可能性があります。つまり西部医師会員が重要な情報を共有した段階では、その情報はすでに陳腐化していたり変質していたりする可能性があります。
医師会員は自分たちの進む方向を決めていく際、その時点で共有している情報を元に進路を決断していくわけですが、上記のように不充分な情報を元になされる可能性があります。さらにもう一つ言えば紙の情報の蓄積は情報の検索を困難にします。例えばある出来事について過去10年間のデータの一覧を見たいという要求を、紙の蓄積の中から再構築することは不可能に近いことです。従ってこのような古い形の情報処理を医師会がいつまでも続けることは、医師会活動に致命的な打撃を与える可能性があります。また将来の発展にとっても憂うべき事なのです。
医師会の情報化と情報開示、つまり会員がリアルタイムで、正確で、検索しやすい情報を共有することがこれからの大切な事業になります。そしてそのような環境はインターネットをはじめとする電子的なネットワークの構築でのみ実現可能なのです。
情報化の実践に当たって
組織における情報化の実践において、いつも一番障害になるのは情報機器を扱えない仲間をどうしたらよいかという問題です。すなわちパソコンのような情報機器の取り扱いには一定のトレーニングが必要であり、全ての方に習熟していただくのは困難だからです。
つまり、情報機器を扱える方だけが質の高い情報を所有できるという情報の偏在が生じ、情報から取り残される情報弱者が出現すると言うことです。現在、情報化にブレーキがかかる理由の一つがこの点にあります。言い換えれば、現状では医師会情報化を会員の総意に基づいて実践して行くには困難を伴うという点です。しかし、だからといって僕たちは情報化への歩みを止めてしまって良いのでしょうか?
昔から国家国民の将来性を占う指標として、識字率という言葉が使われます。識字率が高い国は国民の教育レベルが高く、質の高い労働力が得られ、政治経済から文化まで国家の将来に期待がもてます。現在、この識字率に当たる言葉がコンピュータリテラシー、情報リテラシーなどとして使われる言葉です。つまり組織の構成員がどれだけ情報機器を使えるかが、その組織の将来を決めると言っても過言ではないのです。
表題に掲げた医師会総合情報ネットワーク構想というのは日医が掲げているものです。この中には情報弱者を支援するため、紙の情報など従来のメディアを含めたメディアミックスと言う概念が唱われています。しかしながらこのような方法には自ずと限界があり、会員の方のパソコンへの取り組みを医師会みずからが支援していく体制が必要になってきます。
日本医師会情報化検討委員会の平成11年度報告書によりますと、この問題について以下のようにコメントしています。「会員の情報化意識レベルに固守し過ぎず、常に世の中の情報化推進レベルに合わせて医療情報化を実践していく姿勢と決断が強く望まれている。」
情報化のもたらすもの
いきなり結論を申し上げると、情報化と情報開示により会員がリアルタイムに、正確で、検索しやすい情報を共有できるようになると、組織内でより根拠の深い合意が形成されるようになり、より民主的で開けた強い組織になっていくことが期待出来ます。そして共通の認識と目標を持ったタイムリーな医師会活動や地域医療活動が可能になります。
各論を挙げるときりがありませんが、まず理事会をはじめとする医師会の会議は電子メールなどの手段により、会議の開催日だけでなく毎日24時間オープンし常に臨戦態勢にいることが出来るようになります。そしてその情報を即刻会員に開示する事が可能になり、会員の中に豊かな議論と合意が形成されます。
電子的なネットワークは距離を無化する(遠く離れていることを無意味にする)働きがあり、毎日の診療で孤立しがちな会員同士をまるで同じ医局で隣の机に座っているかのように結びつけあいます。そしてネットワークを介して診療活動、保健活動、医師会活動などの支援体制を作ることができ、会員の意識をよりグローバルなものに引っ張り、今まで閉じこめられがちだった会員一人一人の考えを広めることが出来ます。
対外的には医師会の意見や様々な活動についての正確な情報の発信や公開が容易になり、社会からより信頼された組織となることが出来ます。つまり国民にその活動を期待される医師会へ変貌するチャンスを与えてくれます。
おわりに
ネットワークは基本的に人と人を結びつけるものです。よく言われるように物理的なネットワーク作りは金さえあれば簡単に出来ます。僕たちのもっと大切な仕事はソフト的な人の心の架け橋となるネットワークを作っていくことだと思います。
とは言いながらも、インターネットなどの電子的ネットワークは医師会組織が未だかって経験したことのない強力な組織インフラとなります。また医療の情報化はこれからの医療のキーワードとなる医療情報の共有や医療の効率化に欠かすことの出来ないものです。
この研究会は情報化組織の中のフラッグシップとなって、今後も鳥取県における医師会や医療の情報化に知恵を出し続けていくものと確信しています。僕たちは決して情報化への歩みを止めてはなりません。内に向かっては縦型から横型組織への改革を、外に向かっては地域住民に喜ばれるようなネットワーク作りに取り組んでいきたいと思います。
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