鳥取情報ハイウェイを活用した地域医療ネットワーク構築に関する検討(平成16年)
目次
1.鳥取県で実現されるべき地域医療ネットワークとは?
1−1.鳥取県の特性と鳥取情報ハイウェイの位置付け
1−2.鳥取県において実現されるべき姿
1−3.医療情報システムの特異性
2.実現されるべき医療のシステムとネットワーク
2−1.医療機関情報の提供
2−2.診療情報の共有
2−3.健康に関する情報の提供
2−4.様々な情報システム
2−5.ネットワークの構成者とそれを繋ぐ回線
2−6.本県の医療情報ネットワーク構築における鳥取情報ハイウェイの可能性と問題点
3.地域医療ネットワーク構築において、構成者のそれぞれが果たすべき役割
3−1.県・市町村に対する期待
3−2.医師会や第三者機関が果たすべき役割
3−3.医療機関が果たすべき役割
3−4.県民の参加
4.ネットワーク化社会の中で医師会が存在するために
1.鳥取県で実現されるべき地域医療ネットワークとは?
鳥取県の特性や実情、さらには医療情報の特殊性を把握し、実現すべきシステムについての概略をつかむ。
1−1.鳥取県の特性と鳥取情報ハイウェイの位置付け
本県においては、以下のような問題点が存在する。
a.医療資源の不均等な分布がある。即ち中山間地を多く抱え、過疎地域では充分な医療サービスが受けられているとは言えない。
b.医療機関の機能分化が進んでおらず、患者のフローは必ずしも効率的とは言えない。
c.地域における診療情報の共有が進んでいない。
d.県民の健康に関する情報(疾病、医療、検診等)が不足している。
これらを解決する手段としてIT技術を活用した医療情報システム・地域医療ネットワークがあり、さらにそれを支える有力なインフラの一つとして鳥取情報ハイウェイがある。
1−2.鳥取県において実現されるべき姿
a.地域(患者と医療機関・医師)での診療データの共有(参加型医療の実現)
患者と医師の診療データの共有により、医療に関してより深い説明と同意の形成を可能とする。また医療機関同士の診療情報の共有により、一人の患者に対して地域の複数の医療機関による専門性を生かした効率的で質の高い医療サービスの提供を可能とする。病院医療からネットワークに支えられた地域医療への流れをすすめる(病院医療から地域医療へ)。
b.遠隔医療システムの構築による医療サービスの地域格差の是正
c.医療機関情報の開示による医療資源の効率的な活用
医療を求める人に効率的でより良い医療を受けるための道筋を示す。結果として、医療機関の機能分化の推進と効率的な医療が提供されるようになるものと思われる。
d.医療機関における医療安全システムの構築と、それらを繋いだ地域医療安全ネットワークによるサポート
e.参加型医療を支えるために、県民への健康に関する情報を提供し、患者・医師間の医療に関する情報の非対称の解消をめざす。
1−3.医療情報システムの特異性
1−2を実現するために、医療情報システムの特異性について理解しておかなければならない。
a.医療のIT化は、業務の効率化・経営の合理化など利潤を目的とした他業種のIT化とは異なる側面を持つ。医療のIT化の目的は、IT技術を活用することによって初めて可能となる「効率的で開示された安全な医療の提供」である。
b.電子カルテシステム・医療安全システムなどの医療機関のIT化は、投資に見合った利潤を産まない。一方、医療機関経営はひっ迫しており、医療機関のIT化への投資意欲は失われている。この様な状況の中では、医療機関にシステムを導入しやすい環境を提供すべきである。
c.取り扱う情報がきわめてプライベートなものである。他業種のシステム以上にセキュリティとプライバシーの保護(個人情報の自己コントロール権と目的外使用の禁止を含めて)が必要である。
d.救急や感染症に県境はなく、県境で止まってしまうシステムであってはならない。
2.実現されるべき医療のシステムとネットワーク
1で掲げた本県の特性に基づき、実現に向けて努力すべきシステムとネットワークを個別に取り上げ、実現する過程において明らかにすべき問題点を挙げる。またその中で鳥取情報ハイウェイが果たしうる可能性について述べる。
2−1.医療機関情報の提供
現在、医療機関情報の開示については、種々の団体によって様々な取り組みがなされている。その例として以下のようなものがある。
a.鳥取県の取組、県内の病院を対象にした医療機能調査の公開
b.第3者評価機関である(財)日本医療機能評価機構による評価と開示
c.各地区医師会の取組(東部医師会・西部医師会)
d.民間企業におけるビジネスとしての医療機関情報提供
e.患者団体による医療機関情報の提供
f.健保連など保険者
医療機関情報の開示はこれからますます進んで行くであろうが、医師会や自治体はより信頼できる情報を提供する体制を作っていかなければならない。情報の客観性・真正性の担保は困難であり、地域において第三者機関など医療機関の評価を公正に出来るシステムの確立がまず必要である。いくつかの大切なポイントを以下に挙げる。
医療機関情報開示を実施する場合の大切なポイント
a.この流れが進むと、患者(消費者・クライアント)の医療機関選択に関する眼は賢くなり、医療機関側も一定の機能に分化が進むであろう。
b.ただしウェッブによる医療機関情報開示が誤った患者誘導を惹起し適切な地域医療提供体制を阻害する事の無いようにしなければならない。あくまでゲートキーパーは「ウェッブではなく、かかりつけ医」の仕事である。つまり、医療資源の効率的な分配ができるシステムにする必要がある。設備やスタッフだけを挙げれば登録データの内容は大規模病院ほど有利になりその方向へ患者が誘導される。そうではなくて、かかりつけ医と専門医のネットワークで裏打ちされた地域の医療体制を推進できる方法を考える必要がある。(病院医療から地域医療へ)
c.広告規制の問題。
2−2.診療情報の共有
地域における診療情報の共有については、本県においても地域の基幹病院が核となったスター型のネットワークの提供が始まってきている。しかし地域における患者情報共有のための基盤は、特定の行政機関や医療機関が提供するシステムだけに依存すべきではない。なぜならば、それではネットワークの広域化や多病院を含んだシステムに発展できないからである。また地域の要求より、その機関・病院の事情(システムの要求)が優先される事態も生じうる。さらに基幹医療機関とサテライト医療機関という関係にまで進むと「患者さんの囲い込み」と呼ばれる現象を招来する可能性もあり、それは患者さんから選択の自由を奪うことになる。
従って現在努力すべき事は、診療情報の共有の最終目標である「地域における一患者生涯一カルテ」の実現の為へのプロセスとなるべき活動である。そのためには診療情報を交換・共有するための医療に関する情報の標準化が必須である。しかしながらこの実現には困難な面も多く、現時点ではとりあえず各基幹病院で提供されるネットワークや各診療所に導入されるシステムが、お互いに情報交換可能になるような標準的な仕様に従って設計されるように努力すべきである。また全ての医療機関がネットワーク上で情報を共有するためのソフトウェアの開発と費用の問題もある。
医療機関の壁を越えた電子カルテによる医療情報の共有化が実際はなかなか進んでいない状況にあるが、現時点で何が出来るか?という質問に対する回答として「電子的な診療支援ソフトなどによるサマリー情報の共有」という一つの方向が示されている。その一方で、一部の医師会では情報ネットワークによるサマリー情報の共有が大きな成果を上げている。プレインテキストによるサマリー情報は、EBM等への応用が効かないという欠点を持ちつつも、上記の欠点がなく、容易に電子化、ネットワーク化でき、その効果も高いため、現時点ではもっとも現実的な各個人の医療情報の共有手段のひとつであると考えられる。
上記のような診療情報の紹介先医療機関への提供(共有)に際して、主治医と患者の同意の下に行われる必要がある。提供を受けた医療機関は、提供された情報に関して、その情報の帰属が明示される方法を講じた上で活用しなければならない。
このようなネットワークにおける診療情報の管理について、患者さんの診療情報はその個人と医師(医療機関)の能動的な関係によって発生するものであり、その医療機関とその患者さんで管理されるべきものである。つまり国家や自治体が一元管理すべきものではないと考えられる。従って充分なセキュリティのもと、個人情報保護の理念のもとに、それらが「希望されるときにいつでも開示されるインフラ」を民間が中心になって整えることが大切である。
また、日常診療の医療の質を上げるために必要なことは、研究機関の最先端の情報や論文を把握するだけではなく、日常診療の中で漫然と行われている医療行為にも見直すべき内容は無数にある。たとえば抗生剤の使い方、予防接種の進め方などを例に考えてみた場合、自分だけが使用方法や接種率の向上に努めても限界がある。専門を越え、診療所や病院という枠も越え情報交換を行い、また一般住民への情報提供も行ってゆく中で初めて効果が出ると考えられる。
診療データの共有や収集は患者さんの了解のもとになされるべき事であるが、その様にして収集された診療データのデータベースは、解析・利活用が可能なシステムとし、県民の健康支援、医療機関の診療支援や経営支援、教育、研究などに役立つシステムにすべきである。
現在、日本医師会はORCAプロジェクトを推進している。ORCAプロジェクトとは、互換性のある医療情報を安全に交換できるようにするプロジェクトである。ORCAプロジェクトが進めば、認証局・IPv6などにより医療機関を安全にネットワークに接続でき、医療に関する情報の標準化も推進され、医療機関連携の推進に役立つ。さらにそこで収集されたデータの解析・利活用が可能である。
2−3.健康に関する情報の提供
自治体・医療機関・医師会による疾病や健康に関する情報の発信は、患者と医師との医療に関する情報の非対称を解消し、より良い医療サービスの提供を可能にする。また疾病の一次予防や育児問題に関する情報の提供は、県民の健康な生活を実現する一つの手段となる。医療機関や医師会には、その様な情報の発信に関して提供できる人的資源がある。実際には、インターネット放送・CATVを活用した県民テレビなど鳥取情報ハイウェイの活躍が期待される。
2−4.さまざまな情報システム
ここで述べる医療情報システムは、介護・保健・福祉・防災・救急・感染症などの情報システムと緊密に連携していなければならない。実際に一部の医師会では、空床システムや当直医・救急診療情報システムなどに取り組んでいるところもある。
また、住民の検診データを疫学的に活用するために、検診データ管理システム(住民健康管理システム)の構築が求められている。これらはセキュリティレベルが高い行政のイントラネットを活用し、本人や自治体の許可のもとに(個人情報の目的外使用に該当する)医療へ、疫学へ、保健へ活用する道を開くべきである。自治体・医師会・医療機関のいっそうの連携が必要な分野である。
2−5.ネットワークの構成者とそれを繋ぐ回線
ネットワークは様々な個人と医療関係職種やその団体・自治体などから構成される。健康弱者は情報弱者であることが多く、特に健康弱者に軸足を置きすべての方が参加できるネットワークにする必要がある。
回線については、鳥取情報ハイウェイは主要なバックボーンであるが、それだけに拘泥せずすべての県民・関係機関・医療機関がネットワーク化できるようにする必要がある。県民や一般の医療機関が参加できるように民間の回線や地域のCATV網を活用し、特定の業者だけに依存しない双方向性のあるシステムにすべきである。
本県には以下のような特徴があり、ネットワークを構築する上で考慮すべきである。
a.東・中・西の三つの二次医療圏からなり、それぞれがほぼ完結する形で医療サービスがなされている。
b.兵庫県北部は本県東部、岡山県北部は中部、島根県東部は西部とそれぞれの医療の交流がある。
c.鳥取県西部地震のような大災害に見舞われる可能性がある。
防災・救急ネットワークに関しては、通信衛星の併用など複数の多様な回線に対応し、大災害に耐えるネットワークシステムにする必要がある。また感染症・救急などは県境という壁を越えるシステムにする必要がある。
2−6.本県の医療情報ネットワークの構築における鳥取情報ハイウェイの可能性と問題点
地域において物事を解決する手段としてのネットワークの重要性は、これからますます重要になってくる。県民の健康に関する事項について、県民や医療機関・医師会・自治体を高速のネットワークでつなぎ合わせることは、そういう意味で大切なことである。
鳥取情報ハイウェイは、大容量の画像や動画などを扱う遠隔医療の分野で大きなメリットがある。例えばテレメディシンセンター(テレラジオロジー、テレパソロジーなど)を設置し、医療に恵まれない地域でも都市部と同じレベルの医療を受けることができる環境の提供が可能となる。
また情報ハイウェイと直接繋がっている鳥取大学附属病院、県立病院などにおいては、とくに利用者が限定されている場合においては、お互いに高速通信で、専用回線的な利用価値がある。具体的には、動画像を用いた講演、カンファレンス、動画像コンテンツ配信サーバ(ビデオオンデマンド)などがサービスできると考えられる。
しかしブロードバンドコンテンツが中心となる医療機関連携を成立させる前提条件として、ネットワークされるすべての医療機関が、一定以上の帯域幅を確保して鳥取情報ハイウェイと接続されている必要がある。現状では、ギガビットという高速ハイウェイと繋がるのは県立病院や鳥取大学病院、また地域イントラネットを介してブロードバンドで繋がるのは公立病院や一部の公立診療所に限られる。それ以外の医師会・私立病院・診療所がハイウェイと接続する場合は、ハイウェイへの接続料の支払負担が生じる。従って、それを自治体・医療機関・医師会など誰が負担するかという問題がある。
上記の場合のネットワークは、ブロードバンドであってギガビットにはならない。ただし現状で展開されている医療サービスに関しては、ブロードバンドで充分事足りている。ただし将来、ASPサービスなどによってネットワークでの迅速で大量の情報処理が必要になったり、遠隔手術ロボットの様なシステムが実現される場合にはギガビットレベルの通信インフラが必要になる。
いずれにせよ大切な問題は、すべての医療機関と情報提供を望むすべての県民が繋がらなければ地域における医療連携のネットワークは完結しないという事である。現状では、民間回線の補完的活用・あるいは逆にハイウェイの補完的活用によって、希望するすべての医療機関を繋ぐ環境を整えることが必要である。費用については、前述のようにネットワークの敷設・接続によって生じる費用負担の問題の他、ネットワーク上で情報を共有するための様々なソフトウェアの開発を誰が担当し、誰が負担するかという問題もある。
以上の問題を踏まえて、現時点で直ちに、医療情報サービスのすべてを鳥取県情報ハイウェイに強くこだわって構築することは、あまり現実的とは言えない。よって、現在広く提供されている低コスト低速のインフラのもとで徐々に構築を目指しながら、経済的な面での障害要因が省かれた時点で、鳥取県情報ハイウェイを取り込んで利用することが現実的と考えられる。
ネットワーク上には、盗聴、改竄、なりすまし、否認、など多くの危険性がある。データは世界中の通信経路を流れていくため、どこで盗まれるか分からない。またネットワークは「非対面」での通信であり、通信相手が確かに自分の通信したい人か確認できない。従って医療情報ネットワークを構築する場合、認証技術による安全なネットワーク環境を構築する必要がある。
3.地域医療ネットワーク構築において、構成者のそれぞれが果たすべき役割
地域医療ネットワークを構成する県民、自治体、医療機関、医師会はそれぞれシステムを構築し、管理運営し、そして参加する。これらすべてのシステムは県民(患者)を指向し、県民(患者)の利益となるべきである。構成者・参加者の役割を単純に切り分けることは出来ないが、それぞれが中心になって果たすべき役割について述べる。
3−1.県・市町村に対する期待
すべてが参加できるネットワークインフラ(回線・ハード・データ共有のためのソフトウェアの開発を含む)の提供を期待する。その上で防災救急システム・感染症情報システムなど緊急性・公共性の高い情報システムの構築・管理・運営をして欲しい。また医師会や医療機関と協力し、診療情報が共有できる環境の提供を考えて欲しい。また医師会コンテンツとの連携と協力の上で健康に関する情報の発信を期待したい。民間にはできないコンテンツの提供ができる。
3−2.医師会や第三者機関が果たすべき役割
診療情報は、医療情報の特殊性・医療の専門性・医師の裁量権などを鑑み、行政ではなく医療機関や医師会が中心になり、患者さんの参加を求めて管理すべきである。また診療情報を共有するための手段や指針の提示についてリーダーシップを発揮すべきである。日本医師会ではORCAプロジェクトや日医認証局などで一つの方向性を示している。またさまざまな地域医療ネットワークの管理・運営に関与していくべきである。
医療機関の評価とその公開、そして医療安全システムの管理運営については、第三者機関の設立が必要である。
すぐにでも取りかかる課題として、行政と協力して「鳥取県の医療情報ポータルサイト」を立ち上げ、その運営・管理をしていくべきである。鳥取県医師会、および鳥取県東部医師会、鳥取県中部医師会、鳥取県西部医師会では、Webページを立ち上げ、一般市民への情報サービスや会員への情報サービスを行っている。しかしこれらの内容が十分一般市民に知られているとは言えない。また鳥取県や、各市町村が出す医療方面の情報サービスにしても、各Webサイトの各行政窓口に分かれており、全体を把握しにくい状況にある。
「どのような医療情報サービスを行うか」という問題以前に「どのようにしたら医療情報サービスを得ることができるのか」という大きな問題が、一般市民にも医療関係者にも存在している。このため、まずこの問題を解消するために、「鳥取県の医療情報のポータルサイト」とでも言うべきものを、医師会側と行政が共同で創設運営していく必要性がある。そしてそれはネット上に氾濫する医療情報に保証を与える機能も果たすことになる。
「2−2.診療情報の共有」で掲げたORCAプロジェクトの推進に関して、医師会はさらに積極的に関与していくべきである。
3−3.医療機関が果たすべき役割
それぞれの医療機関は、これから自らを中心に据えた地域への独自なスター型ネットワークを提供していくであろう。それは患者が閲覧可能なウェッブ型電子カルテ、外来予約システム、地域の医療機関に向けた患者情報共有システム・患者紹介システム・検査依頼システムなど、多岐にわたるであろう。
そして最も重要なことは、これらの個々のスター型ネットワークをつなぎ合わせる更に大きな地域のネットワークを構築し、それへ積極的に参加する事である。
3−4.県民の参加
ネットワークの主役である県民の参加なくして地域医療ネットワークは成立しない。そのために、自治体・医師会・医療機関による健康情報(診療録、疾病に関する情報、疾病予防に関する情報、育児に関する情報、検診に関する情報、感染症情報、など患者さんの望む情報を)の開示・発信を進めなければならない。
県民参加のために双方向性の、県民の望む魅力あるコンテンツづくりが必要である。また情報弱者・健康弱者が参加できるやさしいネットワークづくりが必要である。
4.ネットワーク化社会の中で医師会が存在するために
21世紀のネットワーク社会において、この報告書に掲げたような役割を医師会が担うことが出来るであろうか?医師会組織は情報通信革命という社会の大変革の中で「前情報化時代の階層構造」からの脱却に苦しんでいるように見える。
情報化が進む以前から、医師会組織は「日本医師会」「都道府県医師会」「地区医師会」「会員」という階層構造(クライアント・サーバ型)によって支えられてきた。末端からの情報は段階的に集約されて日医に伝えられた。日医からの情報は逆の道をたどりながら会員へ伝えられた。情報が紙の時代にこの方式は組織を支える効率的な方法であった。しかし情報化により社会がフラットになって行くにつれ、医師会の階層構造は大きな壁にぶつかっている。
ネットワーク化社会に適合できる組織とはどんな組織であろうか?
1.外部に開かれた組織である。
2.たゆまぬ情報開示がなされ、公開された豊かな情報を迅速に共有できる組織のことである。
3.開示された情報に基づいて、際限なく合意形成という作業を繰り返すことが出来る組織である。
つまり民主主義が全体主義に勝てるのは「公開された情報の上で成り立った市民の合意」があらゆる近代兵器よりも強いからである。医師会組織がこの様な社会の中で存在意義を示していくのも同じ原理によるであろう。つまり私たちはネットワーク社会に適応した組織作り(ピアツピア型)を考えていかなければならない。それは私たち自身が「オフラインの医師からオンラインの医師になる」ことを意味し、医師会が孤立した医師だけの集合から、市民を巻き込んだネットワーク化コミュニティに変貌することを意味する。